
現在、九十九里沖に設置された掘削リグで試掘作業が進められている「首都圏CCS事業」。この事業の中心的な役割を担っているのが、日本最大の石油・天然ガス開発会社「株式会社INPEX(インペックス)」である。
CCS事業の是非を考える上でも、まず事業主体がどのような企業なのかを知ることは欠かせない。今回は、INPEXという企業の概要と、山武市との意外な関わりについて紹介したい。
首都圏CCS事業の中核を担うINPEX
首都圏CCS事業を推進するため設立された「首都圏CCS株式会社」は、複数の企業による共同出資会社である。
その中で圧倒的な存在感を持つのがINPEXだ。
同社は首都圏CCS株式会社の発行済株式の85%を保有しており、事業計画の立案や技術開発、調査・運営など、文字どおり事業全体の中核を担っている。
首都圏CCS事業は、一企業が独自に始めた事業ではない。
政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げ、その実現に向けた政策を「GX(グリーントランスフォーメーション)」と呼んでいる。
GXとは、化石燃料に依存した社会から脱炭素社会へ移行するため、産業構造やエネルギー政策そのものを転換していこうという国家戦略である。
国はそのGX政策の重要な柱の一つとしてCCSを位置付けており、首都圏CCS事業も国の支援を受けながら進められている国家プロジェクトである。
INPEXとはどんな会社か
INPEXは、日本最大の石油・天然ガス開発会社である。
石油や天然ガスを探し出し、採掘し、生産・販売する「上流事業」を主力としており、日本国内だけでなく、オーストラリア、中東、東南アジア、アフリカなど世界各地で事業を展開している。
同社を代表するプロジェクトの一つが、オーストラリア北西部で進められている「イクシスLNGプロジェクト」で、日本向け天然ガス供給の重要な拠点となっている。
売上高は約3兆4,000億円(2024年12月期)に達し、東証プライム市場に上場する日本を代表するエネルギー企業の一つだ。
近年は従来の石油・天然ガス事業だけでなく、水素、アンモニア、地熱発電、CCSなど脱炭素分野への投資も積極的に進めている。
「INPEX」という社名に聞き覚えがないという人も多いかもしれない。
実はこの名称は、かつての国際石油開発株式会社=International Petroleum Explorationに由来する略称であり、海外資源開発を担う企業として長年使われてきたブランド名でもある。
2006年、国際石油開発株式会社と帝国石油株式会社が経営統合し、「国際石油開発帝石株式会社」が誕生。その後、2018年に社名を現在の「株式会社INPEX」へ変更した。
筆頭株主は経済産業大臣
INPEXには、一般的な民間企業とは異なる特徴がある。
同社の筆頭株主は「経済産業大臣」である。
さらに国は「甲種類株式」と呼ばれる特別な株式を1株保有している。
これは一般に「黄金株(ゴールデンシェア)」とも呼ばれるもので、会社の合併や重要資産の処分、定款変更など、経営上の重要事項について拒否権を行使できる特別な株式である。
つまりINPEXは上場企業ではあるものの、日本のエネルギー安全保障を担う企業として、国が一定の関与を維持する仕組みになっている。
このことからも、INPEXは単なる一民間企業ではなく、日本のエネルギー政策と密接に関わる存在であることが分かる。
山武市民にとっては「身近な隣人」
「INPEX」と聞いてもピンとこなくても、「帝石(ていせき)」という名前なら聞いたことがあるという人は多いだろう。
帝国石油は千葉県でも長年天然ガス開発を行ってきた企業であり、山武市やその周辺にも天然ガス関連施設を設置してきた。
現在でも市内や近隣にはINPEXの施設が点在しており、多くの市民が日常生活の中でその前を通っている。
少し市内を巡ってみると、住宅地や田園地帯の中にガス井などのINPEX関連施設をいくつもみることができる。
CCS事業の開始によって初めてINPEXという名前を知った市民も多いかもしれない。
しかし実際には、この企業は「帝石」の時代から長年にわたり山武地域で事業を続けてきた、いわば地域にとって「身近な隣人」とも言える存在だったのである。
首都圏CCS事業は、日本最大の石油・天然ガス開発会社であるINPEXが主体となり、国のGX政策の一環として進められている国家プロジェクトである。
一方で、地域住民にとっては長大なパイプラインを経て海底への二酸化炭素圧入という前例の少ない事業であり、不安や疑問の声があるのも事実だ。
住民が事業の是非を議論していく上で、事業主体であるINPEXがどのような企業なのかを正しく理解することは重要だ。
本紙では今後も、INPEXと国との関係、首都圏CCS事業の仕組み、GX政策、安全性や地域への影響などについて、さまざまな角度から引き続き取材を進めていく。











