首都圏CCSを動かす「先進的CCS事業」とは──シリーズ「CCSは地球を救うのか?」①

山武ジャーナルではこれまで、千葉県九十九里沖で進められている「首都圏CCS事業」について、さまざまな角度から取り上げてきた。

2026年7月には九十九里沖で試掘が始まり、巨大な掘削リグが海上に姿を現した。いよいよ私たちの身近な場所で、具体的な作業が始まったことになる。

しかし、首都圏CCS事業だけを見ていると、この事業がどのような仕組みの中で動いているのかは、なかなか見えてこない。

首都圏CCS事業は、単独で始まった事業ではない。

その上には、国が進める「先進的CCS事業」という大きな枠組みがある。

今回は少し視点を引いて、この「先進的CCS事業」とは何なのか。そして、国やJOGMEC、実際に事業を進める民間企業が、それぞれどのような関係にあるのかを整理してみたい。

「先進的CCS事業」とは何か

「先進的CCS事業」は、経済産業省・資源エネルギー庁が進めるCCS政策の一環として、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が実施している事業だ。

政府は、2030年までのCCS事業化を目指している。

そのためには、単に地下へ二酸化炭素(CO₂)を注入する技術だけがあればいいわけではない。

工場や発電所などから排出されるCO₂を分離・回収し、それを貯留地点まで運び、地下深くに圧入して長期間貯留する必要がある。

こうした「回収→輸送→貯留」という一連の事業の流れを、政府や事業者の資料では「CCSバリューチェーン」と呼んでいる。

「バリューチェーン」という言葉は少々分かりにくいが、ここでは簡単に「CCSを実施するための一連の事業の流れ」と考えればいい。

先進的CCS事業では、この一連の流れを実際の事業として成立させることを目指し、必要な調査や設計などが進められている。

JOGMECが事業計画を作っているわけではない

ここで一つ、首都圏CCS事業を理解するうえで重要な点がある。

「国策として進められているCCS」と聞くと、国やJOGMECが全国の工場や発電所、地下の地質などを調べ、

「この工場から出るCO₂は、この海域に運んで貯留する」

といった事業計画を作り、それを民間企業に実施させているような印象を持つかもしれない。

しかし、先進的CCS事業の仕組みはそうではない。

JOGMECは、先進的CCS事業に関する調査などについて公募を行う。

それに対して民間の事業者が事業構想を作り、応募する。

一社だけですべてを行うのではなく、CO₂を排出する企業、石油・天然ガス開発会社、エンジニアリング会社など、複数の企業が共同で応募するケースが多い。

このように、特定の事業を共同で進めるために複数の企業などが組む共同事業体を「コンソーシアム」と呼ぶ。

JOGMECは、こうして事業者側から提案された案件を審査し、候補案件を選定する。

選定された案件では、事業化に向けた調査や設計などが国費による支援のもとで進められる。

整理すると、基本的な流れは次のようになる。

経済産業省・資源エネルギー庁
政策、制度、予算

JOGMEC
公募、技術的評価、候補案件の選定、調査管理

民間事業者・コンソーシアム
事業構想を提案し、選定後は調査、設計、試掘などを実施

つまり、「国が作ったCCS計画を民間企業が請け負っている」という単純な構造ではない。

国がCCS事業化という大きな政策目標を設定し、その枠組みの中で民間事業者が具体的な事業を提案し、JOGMECがそれを審査・選定しているのである。

2023年度、まず7つの事業が選ばれた

JOGMECは2023年、「先進的CCS事業の実施に係る調査」の公募を行い、最初の候補案件として7事業を選定した。

このうち5事業は日本国内でCO₂を貯留する計画で、2事業は海外で貯留する計画だった。

翌2024年度には対象が拡大され、国内貯留5事業、海外貯留4事業の計9事業が「先進的CCS事業」の設計作業等の候補として選定されている。

ここで使われている「設計作業」とは、すぐに設備を建設するという意味ではない。

実際にCCS事業を始めるためには、地下の地質や貯留可能量、CO₂の回収設備、輸送設備、パイプライン、圧入設備などについて詳細な検討が必要になる。

資料には「FEED」という言葉も頻繁に登場する。

FEEDは「Front End Engineering Design」の略で、日本語では一般に「基本設計」などと訳される。実際の建設に進む前に、どのような設備が必要なのか、どの程度の規模になるのか、費用はどの程度かかるのかといったことを具体化していく設計作業だ。

首都圏CCS事業で現在行われている九十九里沖の試掘も、こうした事業化に向けた調査の一つと位置づけることができる。

何を基準に選んでいるのか

では、応募されたCCS事業は、どのような考え方で選ばれるのだろうか。

先進的CCS事業は、単純に「最も多くのCO₂を貯留できる事業」を順位付けする仕組みではない。

事業として成立する可能性や、2030年までの事業開始を見通せるかどうか、CO₂の回収から輸送、貯留までを一体として構築できるかといった複数の観点から候補案件が評価されている。

これは重要なポイントだ。

先進的CCS事業として選ばれた案件は、「日本全国のCO₂排出源と貯留候補地を国がすべて比較し、その中から最も効率のよい組み合わせを選んだ」という意味ではない。

あくまで、事業者側から提案された事業についてJOGMECが審査し、国が目指すCCS事業化に向けた候補案件として選定したものである。

この違いは、首都圏CCS事業がなぜ現在の形になっているのかを考えるうえでも、押さえておく必要がある。

全国で進められている9つの「先進的CCS事業」

では、実際にはどのような事業が選ばれているのだろうか。

2024年度に選定された先進的CCS事業は9案件。このうち、日本国内にCO₂を貯留する計画が5案件、海外に貯留する計画が4案件となっている。

首都圏CCS事業だけを見ていると分かりにくいが、9案件を並べてみると、国が進めようとしている「先進的CCS事業」の全体像が見えてくる。

事業主な参画事業者主なCO₂排出地域・排出源輸送方法貯留候補地
苫小牧地域CCS事業石油資源開発、出光興産、北海道電力苫小牧地域の製油所、発電所パイプライン北海道・苫小牧沖
日本海側東北地方CCS事業伊藤忠商事、日本製鉄、太平洋セメント、三菱重工業、INPEXほか日本製鉄九州製鉄所大分地区、デイ・シイ川崎工場、貯留地周辺の産業など船舶+パイプライン日本海側東北地方沖
東新潟地域CCS事業石油資源開発、東北電力、三菱ガス化学、北越コーポレーション新潟県内の化学工場、製紙工場、発電所パイプライン新潟県内
首都圏CCS事業INPEX、日本製鉄、関東天然瓦斯開発日本製鉄東日本製鉄所君津地区、京葉臨海工業地域などパイプライン千葉県九十九里沖
九州西部沖CCS事業西日本カーボン貯留調査、ENEOS、JX石油開発、電源開発瀬戸内・九州地域の製油所、火力発電所など船舶+パイプライン九州西部沖
マレー半島沖北部CCS事業三菱商事、ENEOS、JX石油開発、JFEスチール、コスモ石油、日本触媒、PETRONAS東京湾臨海地域の鉄鋼、化学、石油精製など液化CO₂船舶+パイプラインマレーシア・マレー半島北東沖
サラワク沖CCS事業石油資源開発、日揮ホールディングス、川崎汽船、JFEスチール、三菱ケミカル、中国電力ほか、PETRONAS瀬戸内地域の製鉄所、発電所、化学工場など液化CO₂船舶+パイプラインマレーシア・サラワク州沖
マレー半島沖南部CCS事業三井物産、中国電力、関西電力、九州電力、電源開発、コスモ石油、レゾナックほか、PETRONAS、TotalEnergies近畿・中国・九州地域の発電、化学、セメント、石油精製など液化CO₂船舶+パイプラインマレーシア・マレー半島東海岸沖
大洋州CCS事業三菱商事、日本製鉄、三菱ケミカル、三菱商事クリーンエナジー、ExxonMobil中部地区(名古屋港、四日市港周辺)の製鉄所、化学工場など液化CO₂船舶+パイプライン大洋州(豪州など)
画像はJOGMECのWEBサイトから引用 先進的CCS支援

この中の一つが、現在九十九里沖で試掘が行われている首都圏CCS事業である。

一方、9案件のうち4案件は、日本国内で回収したCO₂を海外へ運んで貯留する計画だ。

そのうち3案件はマレーシア、残る1案件は豪州などの大洋州での貯留を想定している。

国内で貯留する事業だけでなく、日本国内で回収したCO₂を液化し、船舶で海外へ輸送する事業も、「先進的CCS事業」という同じ枠組みの中で進められている。

首都圏CCSを見るための「一段上の構造」

ここまでを整理すると、首都圏CCS事業の位置づけも少し違って見えてくる。

九十九里沖で試掘を行っている首都圏CCS株式会社が、単独で突然CCSを始めたわけではない。

その背景には、国が進めるCCS政策があり、その実施機関としてJOGMECが先進的CCS事業を公募し、事業者側から提案された案件を審査・選定するという仕組みがある。

首都圏CCS事業も、その仕組みの中から選ばれた事業の一つだ。

だからこそ、首都圏CCS事業について考えるときには、九十九里沖で行われている試掘だけを見るのではなく、

誰がこの事業を構想したのか。

どのような仕組みで選ばれたのか。

そして、同じ仕組みの中では、ほかにどのような事業が進められているのか。

というところまで視野を広げて見る必要がある。

まずは、その仕組みを知ることから始めたい。

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