首都圏CCS、国際基準に関する説明の不適切さ認める 山武ジャーナルの独自取材で判明

掘削前の環境評価は文献調査が基本 環境影響評価報告書の存在を確認するも公開は未定

千葉県九十九里沖で進められている首都圏CCS事業について、事業主体の首都圏CCS株式会社(MCCS)が、公式サイトに掲載している国際的な環境評価基準に関する説明について、不適切な記述があったことを認め、修正する方針を示したことが山武ジャーナルの独自取材で明らかになった。

また、評価井掘削前に実施した自主的な環境社会影響評価は、現地調査ではなく文献調査を基にしたものであることや、環境社会影響評価報告書、環境管理計画などの資料が存在することも確認された。

一方、これらの資料について、MCCSは一般公開の方針が確定していないと説明している。

山武ジャーナルでは、8月22日に発生したA重油流出事故や、同29日の作業船火災などを受け、8月30日にMCCSに対して環境影響評価に関する7項目の質問を送付した。

MCCSからは9月16日に電話で回答を受けたが、その内容を山武ジャーナルが文書にまとめ、確認を求めたところ、10月14日に訂正・補足を加えた正式な回答が届いた。

今回の取材では、MCCSが実施している環境社会影響評価の内容とともに、地域住民に対する情報公開のあり方についても課題が浮かび上がった。

事故を受け、環境影響評価について7項目を質問

8月22日、九十九里沖で実施されている首都圏CCS事業の評価井掘削作業中に、燃料のA重油が海上に流出する事故が発生した。さらに29日には作業船で火災が発生するなど、相次ぐ事故によって事業の安全管理や周辺環境への影響に関心が集まった。

また、この時期には九十九里浜でハマグリが大量に打ち上げられる現象も発生していた。

山武ジャーナルでは、ハマグリの大量打ち上げと評価井掘削との因果関係を判断できる資料は確認できていなかったが、そもそも掘削開始前の九十九里沖について、比較の基礎となる環境データが存在するのかという疑問を持った。

そこで着目したのが、MCCSが自主的に実施していると説明する「環境社会影響評価」だった。

首都圏CCS事業は、現行の環境影響評価法に基づく法定アセスメントの対象事業ではない。しかしMCCSは、公式サイトのFAQで、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)が定める国際基準に準じた自主的な環境社会影響評価を実施していると説明していた。

山武ジャーナルでは8月30日、MCCSに対して以下の7項目を質問した。

① 評価井掘削前に環境の現況調査を実施しているか。

② 水質、底質、生物相、水中騒音・振動など、どのような項目を調査したか。

③ 調査時期、地点、方法などを示した資料は存在するか。

④ 環境社会影響評価書や環境管理計画、モニタリング計画などは作成されているか。

⑤ これらの資料やデータを一般公開する予定はあるか。

⑥ IFCの国際基準のうち、具体的にどの基準を適用、または参照しているか。

⑦ 評価結果について、地域住民や漁業関係者、自治体などへの情報開示や意見聴取をどのように行っているか。

質問は、MCCSの公式サイトに掲載されている説明の具体的な内容を確認するものであり、事業の中止や計画変更を要求するものではない。

また、事故対応などで多忙な状況を考慮し、回答期限は設けず、社内で確認したうえでメールによる回答を依頼した。

電話での回答を文書化、確認に約1か月

MCCSからは、質問内容が多岐にわたるため社内で整理して回答するとの連絡があった。

その後、9月16日に電話で説明を受けた。

電話では長時間にわたって質問への回答や意見交換が行われたが、専門的な内容が多く、聞き違いや認識の相違が生じる可能性もある。

そこで山武ジャーナルでは、電話終了後、回答内容を質問項目ごとに文章にまとめ、同日中にMCCSへメールで送付した。

9月17日にはMCCSから、追加で担当部署に確認する必要が生じたため、もう少し時間がほしいとの返信があった。

しかし、その後も確認結果が届かなかったため、10月10日に改めて問い合わせたところ、10月14日になって、訂正・補足を加えた回答が届いた。

MCCSは返信の冒頭で、回答が大幅に遅れたことを謝罪している。

山武ジャーナルが今回の取材結果をこの時期に報じることになったのは、口頭での説明内容について、MCCS自身による確認を待っていたためである。

掘削前の環境評価は「文献調査」が基本

10月14日の回答で明確になったことの一つが、評価井掘削前の環境調査の実態だ。

9月16日の電話説明について、山武ジャーナルでは「現地調査を含む自主的な環境社会影響評価を実施している」と理解し、確認を求めていた。

しかしMCCSは、10月14日の文書回答で、この部分を「文献調査をもとに自主的な環境社会影響評価を実施している」と訂正した。

現地調査については、事業開発に伴う工事による影響を調べるために実施していると補足している。

つまり、現在進められている評価井掘削について、掘削前に現地で環境データを取得したうえで評価したという説明ではなかったことになる。

一方、MCCSは評価対象として、水中騒音・振動、魚類や海洋哺乳類への影響、水質、底生生物、漁業活動への影響などを挙げた。

また、将来の建設工事やCCS事業全体を対象とした追加調査では、陸域や沿岸域の生物なども調査しているという。

ただし、これらの評価に使用したデータの取得時期、調査地点、調査方法などを示す具体的な資料は、今回の回答では提示されなかった。

文献調査による環境影響評価が、直ちに不適切というわけではない。しかし、実際の海域で掘削作業が行われる以上、作業開始前の環境状態を把握できるデータがどの程度存在するのかは重要な問題である。

特に、ハマグリの大量打ち上げのような現象が発生した場合、掘削前後の環境状態を比較できるデータがなければ、事業との因果関係を検証することは難しくなる。

山武ジャーナルでは、掘削開始前の環境状態を客観的に把握できるデータがどの程度存在するのか、引き続き確認が必要だと考えている。

環境社会影響評価報告書と環境管理計画の存在を確認

今回の回答では、これまで一般に公開されていなかった資料の存在も明らかになった。

MCCSは、評価井掘削前の事前調査データに加え、「環境社会影響評価報告書」と「環境管理計画(モニタリング計画を含む)」が存在することを明言した。

環境社会影響評価報告書は、事業が自然環境や地域社会に与える影響を評価したものであり、環境管理計画は、その影響を管理・監視するための計画と考えられる。

こうした資料が作成されていること自体は、事業者が環境への影響を検討していることを示すものだ。

しかし、資料が存在することと、その内容が妥当であることは別問題である。

どのようなデータを用い、どのような手法で評価し、何を根拠に影響が許容できると判断したのか。報告書が公開されなければ、第三者がその妥当性を検証することはできない。

MCCSは資料の一般公開について、関係省庁や漁業関係者などとの調整が必要であり、現時点では方針が確定していないと説明している。

公開を前提とした調整を行っていなかったため、関係先の許諾などが必要になるという。

しかし、資料のすべてを公開できない事情があるとしても、公開可能な部分を切り分けたり、調査結果を要約して公表したりする方法は考えられる。

少なくとも、今回の回答では、どの資料を、いつ、どのような形で公開するのかという具体的な見通しは示されなかった。

国際基準に「準じた評価」と「参照した独自基準」は同じなのか

今回の取材で、もう一つ重要な事実が明らかになった。

MCCSの公式サイトでは、自主的な環境社会影響評価について、次のように説明していた。

「INPEXグループでは、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)が定める国際基準に準じ、環境社会影響評価のガイドラインを定め、自主的な環境社会影響評価を実施しています。」

首都圏CCS株式会社ウェブサイトより引用

さらに、本事業でもその基準に基づいて環境社会影響評価を実施していると説明していた。

IFCは、開発途上国などの民間事業に投融資する国際金融機関で、事業が環境や地域社会に与える影響を適切に管理するための国際的な基準を定めている。

その中心となるのが「パフォーマンススタンダード(Performance Standards)」と呼ばれる8つの基準だ。

これらは環境汚染の防止や生物多様性の保全だけでなく、地域住民の健康と安全、土地取得に伴う影響、関係者への情報開示や協議なども対象としている。

特にPS1(環境・社会リスクと影響の評価・管理)では、事業による影響を把握し、管理することに加え、影響を受ける地域社会への情報提供や協議も重視されている。

つまり、IFC基準は単に環境汚染の数値を評価するための技術基準ではない。事業によるリスクをどのように評価し、その結果を地域社会とどのように共有するかという手続きも含めた国際基準なのである。

山武ジャーナルでは、MCCSが公式サイトでこの基準に言及していたことから、具体的にどの基準を首都圏CCS事業に適用しているのかを質問した。

これに対してMCCSは10月14日、IFCのPS1~PS8を含む国際的なガイドラインを参照しているものの、実際に使用しているのは独自のガイドラインであると説明した。

そして、従来の公式サイトの記載について、次のように回答している。

「IFCスタンダード(1~8)を含む国際的なガイドラインを参照しているものの、独自のガイドラインであることから、ホームページの記載は適切ではないとの認識に至った。」

そのうえで、実態に即した表現へ修正・見直しを行う方針を示した。

ここで問題となるのは、「準じる」と「参照する」の違いだ。

一般に、ある基準に準じているという説明は、その基準の考え方や要求事項に沿って評価が行われていることを意味する。

一方、基準を参照して独自のガイドラインを作成したという説明では、何を取り入れ、何を取り入れなかったのかは、独自ガイドラインの内容を確認しなければ分からない。

独自基準を採用すること自体が問題なのではない。国内の法令や事業の特性に合わせて、独自の評価方法を定めることには合理性がある。

しかし、それを国際基準に準じた評価であると説明するのであれば、両者がどの程度整合しているのかを示す必要があるだろう。

今回の回答では、MCCSがIFC基準のどの要求事項を取り入れ、どのような独自基準に置き換えたのか、その具体的な対応関係は明らかになっていない。

さらに、MCCSが存在を認めた環境社会影響評価報告書や環境管理計画も、現時点では一般に公開されていない。

このため、第三者がMCCSの評価とIFC基準との整合性を検証することは困難な状況にある。

なお、MCCSがIFCから認証を受けたと説明していたわけではない。IFC基準への準拠と、IFC自身による審査や認証は別の問題である。

しかし、世界銀行グループの国際基準という名称が、一般の読者に強い信頼感を与えることは想像に難くない。

その名称を掲げながら、実際には独自基準による評価だったというのであれば、説明の正確性は厳しく問われるべきだ。

MCCSは公式サイトの修正方針を示しているが、10月18日現在、当該FAQの記述は変更されていない。

今回の問題は、国際基準を参考にしたことの是非ではない。

国際基準の権威を背景に事業の環境配慮を説明してきた一方で、その基準をどのように取り入れ、どのような評価を行ったのかを住民が確認できる資料が公開されていないことこそ、問題の核心ではないだろうか。

IFC基準が重視する「情報開示」

今回の問題でもう一つ注目したいのは、MCCS自身が参照しているIFCのパフォーマンススタンダードが、地域社会への情報開示や協議を重視していることだ。

特にPS1では、事業によって影響を受ける地域社会に対し、事業の内容やリスク、影響、緩和策などについて情報を提供し、関係者との協議を行うことが求められている。

もちろん、MCCSが独自のガイドラインを採用している以上、IFCの要求事項がそのまま法的義務になるわけではない。

また、今回の取材結果だけで、MCCSの環境社会影響評価がIFC基準に違反していると断定することもできない。

しかし、国際基準を参照していることを環境配慮の根拠として説明するのであれば、その基準が重視する情報開示や地域社会との協議についても、どのような考え方を取り入れているのか説明する必要があるだろう。

MCCSは環境社会影響評価報告書の存在を認めているものの、一般公開の方針は定まっていない。

事業者が評価結果を説明することと、住民がその評価の妥当性を確認できることは違う。

この違いは、今回の取材全体を通じて浮かび上がった問題でもある。

環境団体への回答にも共通する情報公開の問題

山武ジャーナルが独自取材を進めていた9月7日、九十九里の海をまもる会やFoE Japanなど4団体も、MCCSに対して評価井掘削の停止を求める申し入れと公開質問状を提出した。

MCCSは9月18日、これに対する回答を公式サイトで公表した。

環境団体側は事故の発生や環境への影響を問題視し、事業の停止などを求めていた。一方、山武ジャーナルは、環境影響評価の具体的な内容と根拠資料の確認を目的としていた。

質問の立場も目的も異なるが、両者への回答には共通する問題がある。

MCCSは自らの見解や評価結果について説明する一方、それを第三者が検証するための根拠資料の公開には、具体的な道筋を示していない。

重油流出事故や作業船からの排水をめぐる疑問などについては、事実関係を説明し、事業者としての見解を示している。根拠の確認できない疑惑について明確に否定したことも、情報提供として意味がある。

しかし、事業者が「問題はない」と説明することと、その判断を裏付ける資料を第三者が確認できることは違う。

環境影響評価についても同様だ。

評価を実施したという説明だけでは、その評価が十分だったのか、判断に用いたデータが適切だったのかを検証することはできない。

MCCSが住民の理解を重視するのであれば、結論を説明するだけでなく、その結論に至った過程を示す必要がある。

37リットルと3キロメートル──何を伝え、何を伝えないのか

MCCSの情報発信については、8月22日の重油流出事故でも考えさせられる事例があった。

MCCSは事故について、海域へのA重油流出量を37リットルと公表した。

一方、海上保安庁が当時報道機関向けに発表した資料には、巡視艇によって約3km×70mの範囲に油膜が確認されたことが記されていた。

MCCSの事故発表では、この油膜の広がりについて触れられていなかった。

なお、その後、山武ジャーナルが情報公開請求によって入手した資料では、ヘリコプターによる上空からの確認で約3km×300mの範囲に油膜が認められていたことも判明している。両者は観測方法や時刻が異なるものであり、詳細は既報の通りだ。

37リットルという流出量と、約3kmにわたる油膜の広がりは、どちらも同じ事故を表す事実である。

油膜が広範囲に広がったからといって、流出量が37リットルより多かったことを意味するわけではない。

しかし、37リットルと聞くのと、油膜が約3kmにわたって確認されたと聞くのとでは、事故に対する印象は大きく異なるだろう。

事業者が事故について正確な数字を発表していても、それだけで事故の全体像が伝わるとは限らない。

何を公表し、何を公表しないのか。その情報の選択もまた、事業者の情報発信に対する姿勢を判断する材料になる。

情報発信と情報公開は違う

MCCSは、地域住民の理解を得ることが重要だとして、コミュニケーションセンターの開設や広報紙「うみとみらい通信」の発行など、積極的な広報活動を展開している。

地域住民に事業の内容を説明し、疑問に答えるための窓口を設けること自体は必要な取り組みだ。

しかし、今回の一連の取材を通じて浮かび上がったのは、そうした積極的な情報発信と、根拠資料の公開に対する慎重な姿勢との落差だった。

そもそも、情報発信と情報公開は違う。

事業者が自ら選択した情報を住民に伝えることは、広報活動である。

それに対して情報公開とは、事業者が何を伝えたいかではなく、住民が何を知る必要があるかという観点から、判断の根拠となる情報を提供することだ。

広報活動では、事業者が伝える内容を選択できる。事業の意義や必要性を強調し、安全対策を紹介し、住民に安心感を与えることもできる。

しかし、住民が事業の安全性や妥当性を自ら判断するためには、事業者にとって都合のよい情報だけでなく、不確実性やリスク、評価の限界についても知る必要がある。

今回の環境社会影響評価報告書の問題は、その違いを端的に示している。

MCCSは評価を実施したと説明している。しかし、その内容を第三者が検証するための資料は公開されていない。

国際基準に準じた評価を行っていると説明していたが、実際には国際基準を参照した独自の評価であり、公式サイトの説明が適切ではなかったことも認めた。

こうした事実を踏まえると、MCCSが住民に提供している情報は、住民自身が事業を判断するためのものとして十分なのか、疑問を持たざるを得ない。

事業者が自らに都合のよい情報を選んで発信し、住民の支持や受容を得ようとするのであれば、それは情報公開ではなく、プロパガンダに近い。

個々の情報が正確であっても、何を伝え、何を伝えないかによって、受け手の認識を一定の方向へ誘導することは可能だ。

住民の「理解」と「納得」と「同意」は違う

MCCSは、地域住民の理解を得ることが重要だと繰り返している。

しかし、ここで考える必要があるのは、住民の「理解」と「納得」、そして「同意」は、それぞれ異なるということだ。

理解とは、事業の内容や必要性、リスクなどを正しく把握することである。

納得とは、説明された内容や判断の根拠について、自分なりに合理性を認めることである。

同意とは、その事業の実施を受け入れる意思を示すことである。

事業の内容を十分に理解したからといって、その必要性や安全性に納得するとは限らない。

また、CCSという技術の必要性には納得しても、九十九里沖を貯留場所に選定したことには同意しないという判断もあり得る。

住民が十分な情報を得て、事業について正しく理解した結果、反対することもある。

それもまた、住民理解が進んだ結果の一つである。

もし事業者が、住民の反対を単に理解不足の結果と捉え、説明を繰り返せばいずれ同意が得られると考えているのであれば、それは住民理解という言葉の意味を取り違えている。

事業者が住民の理解を得るために必要なのは、広報活動を充実させることだけではない。

住民が事業者の説明を疑い、検証し、場合によっては反対するための情報も提供することだ。

MCCSが本当に住民の理解を重視しているのであれば、環境社会影響評価報告書をはじめとする根拠資料について、公開可能な範囲や時期を具体的に示すべきではないだろうか。

事業の必要性や安全性を判断するのは、事業者だけではない。

その影響を受ける地域住民にも、自ら判断するための情報が必要なのである。

情報公開とは、事業者の説明を信じてもらうためのものではない。事業者の説明が正しいかどうかを、住民自身が確かめられるようにするためのものだ。

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