ヤミ金業者と同じルートでFAXを送信してきた「一般社団法人日本中小企業経営者協会」
頼んでないのに一方的に送りつけられる迷惑FAX。なんの関心もない広告の印刷に自分の紙とインクを強制的に使われるのはいい気分がしない。このようなFAXDMは2017年の特定商取引法改正で、送信を希望しない相手に送信することは違法とされたが、これは一般消費者の話なので法人や個人事業主は対象外だ。山武ジャーナルの運営会社ももちろん対象外なので容赦無くFAXDMは送られてくる。
そこで何年か前に「迷惑FAX撲滅キャンペーン」を始めた。内容は、取引先以外からのFAX受信には1万円の受信手数料を請求するというもの。FAXDMを受信するたびに広告主の企業やFAX一斉送信業者に連絡してその旨を伝えると、だいたい「今後二度と送らないので勘弁してほしい」という話になる。このキャンペーンが奏功して近頃では普通の業者からのFAXDMは届かなくなったが、それでもヤミ金業者だけはいまだに送ってくる。ヤミ金業者は電話しても出るのはチンピラみたいなのばかりで、全く話にならないからだ。仕方がないので、効果があるか分からないがヤミ金業者からのFAXは住所地の警察の生活安全課に転送することにしている。
さて、そのような状況で、珍しくヤミ金業者以外からのFAXDMが届いた。
送信者は「一般社団法人日本中小企業経営者協会」で、12月5日に千葉市生涯学習センターで開催される「採用カンファレンス2024」の参加申込書だった。
「一般社団法人日本中小企業協会」はどこにあるのか?
これは久しぶりにキャンペーンを実施しなければと思い、請求先を確認しようと送られてきたFAXをよく見たがどこにも住所が書いていない。ググってみると日本中小企業経営者協会のWBサイトはすぐに見つかったが、「全国相談会実施会場」として北海道から沖縄まで9カ所の住所が表記してあるものの、肝心の日本中小企業経営者協会自身の住所はどこにも表記されていなかった。
仕方がないので直接電話して聞いてみることにした。表示されている「03-6823-4786」に電話して住所を聞くと、「ここは受付なので答えられない。後ほど担当者から連絡する」とのこと。この対応にはかなりの不信感をおぼえたので何度か食い下がるも、いくら話してもそれ以上進展しないので一旦電話を切って担当者からの連絡を待つことにした。
担当者からの連絡を待つ間に改めて調べてみると、法人番号公表サイトの検索結果から登記されている住所が「東京都千代田区丸の内3丁目2-2丸の内二重橋ビル2階」であることがわかった。さらにこの住所でググると、この住所がサーブコープ社が運営するレンタルオフィス・バーチャルオフィスであることがわかった。レンタルオフィス・バーチャルオフィスは、安価な料金で一等地の住所を「自分の住所」として利用できるサービスで、法人登記も可能だ。サーブコープ社のWEBサイトを見ると、この丸の内二重橋ビルのバーチャルオフィスでは月額18,200円で住所貸しパッケージを提供している。「日本中小企業経営者協会」などと大仰な名称を名乗りながら、住所がバーチャルオフィスというのはなんとも違和感がある。そこでさらにWEBサイトに掲載している「全国相談会実施会場」の住所をググってみると、これらも全て日本リージャス社が運営するレンタルオフィスの住所だった。
次にFAXの送信元の番号「0120-815-033」に電話してみたが、「フリーコールです。ただいまの時間はお繋ぎできません」というアナウンスが流れるだけだった。
これまでの例では、送信元が大手のFAX一斉送信業者だった場合、送信番号を頼りに業者を特定するのは比較的容易だった。FAX番号名簿のデータベース管理がしっかりできている大手の業者は、番号の削除だけでなく削除後の再登録禁止にも対応するので、一度削除依頼をすればその後はその業者を利用する他のクライアントからのFAXも届かなくなる。しかし、ヤミ金業者のFAX送信を受けるような業者の場合は特定が難しく、なかなか実体がつかめない。送信元は「0120」や「0800」といったフリーコールからのものがほとんどで、これらの番号はいつ電話しても繋がらない。案の定「0120-815-033」の番号でググると、「ヤミ金からのFAXが送られてきた」という書き込みのある口コミサイトがいくつか確認できた。日本中小企業経営者協会は、ヤミ金業者も取り扱うような業者に依頼してFAXを送信しているのだ。
こうなると「一般社団法人日本中小企業経営者協会」に俄然興味が湧いてくる。
色々聞いてみようと担当者からの連絡を待ったが、1時間過ぎても連絡はない。再び「03-6823-4786」に電話して催促すると、ようやく「イシハラ」と名乗る女性から電話がきた。着信番号は同じ「03-6823-4786」だった。こちらから電話した時は「ここは受付なので担当者はいない」と言っていたはずなのに、同じ番号から着信があるのはなんともおかしい。しかしせっかく担当者から連絡があったので、「登記上の住所も相談会会場も全てレンタルオフィスで、おたくの協会には実体があるのか? 本当の住所をはどこなのか?」と尋ねると、「上長に聞かないと答えられない」と、受付と同じ回答だった。「確認してもう一度電話する」とのことだったので、「いないと言っていたはずの受付と同じ番号出かけてくるのはおかしい。もしあなたから連絡がなかった場合、こちらからあなたに連絡する手段がないのはフェアではない。こちらも携帯電話の番号を教えるので、あなたと直接話せる番号を教えてほしい」というと、「自分の番号は教えられない。15時に必ず連絡する」と、それ以上の話にはならなかったので電話を切ることにした。
まさかの着信拒否。連絡手段が断たれる。
15時になった。電話はない。「03-6823-4786」に電話する。
「ツー、ツー、ツー」
話中だろうか。5分後にリダイヤル。
「ツー、ツー、ツー」
おかしい。まさか着信拒否されてはいまいか。そう思って発信番号をFAX受信専用の別番号に変更すると、今度は普通に繋がった。やはり着信拒否されていたのだ。
「イシハラさんが15時に連絡をくれると待っていたが連絡がない。イシハラさんに代わってほしい」と伝えると、「ここは受付なので・・・」と相変わらずの対応。
「いや、先程同じ番号から着信があった。そこにイシハラさんはいるはずだ。すぐに代わってください」と食い下がると、「少々お待ちください」と保留された。誰かに判断を仰ぐのだろう。しかし、長い保留の後も「イシハラはここにはいないので、改めてご連絡します」と回答内容は変わらなかった。
「そう言われて待っていたが、約束の時間に連絡がないので電話した。そもそもあなたたちは私の番号を着信拒否にしている。信用できない。すぐに代わってください」とさらに食い下がると、再び長い保留になった。
そして保留後、「これ以上の対応はできません」と電話は一方的に切られた。
その後はFAX番号の方も着信拒否されたのか、繋がらなくなった。FAXの返送先の「03-6823-4751」宛にFAXを送信しても着信拒否だった。こちらから日本中小企業経営者協会に対する連絡手段は全て断たれた。
どうにかして日本中小企業経営者協会と連絡を取りたい
電話もFAXも着信拒否されてしまったが、「日本中小企業経営者協会」に対する興味はますます深まったので、登記簿謄本をとってみた。
令和4年に設立されたばかりの新しい法人だ。現在の丸の内二重橋ビルのバーチャルオフィスには今年の2月に移転登記されているが、移転前の「東京都港区浜松町二丁目2番15号浜松町ダイヤビル2F」も、ググってみるとやはり「レゾナンスバーチャルオフィス浜松町本店」というバーチャルオフィスで、990円(税込)/月で法人登記ができると謳われている。丸の内二重橋ビルのサーブコープの貸し住所パッケージは18,200円(税別)/月となっているのでざっと20倍の料金差のバーチャルオフィスだが、バーチャルオフィスからバーチャルオフィスに移転してなんの意味があるというのだろうか。
丸の内二重橋ビルのサーブコープに、「そちらに住所を置いている一般社団法人日本中小企業経営者協会と連絡を取りたいが、着信拒否されてしまって連絡が取れない。他の連絡手段を知らないか」と問い合わせたところ、「こちらから先方に伝えます」とのことだったので、あまり期待はできないと思いつつ一応こちらの連絡先を伝えてお願いした。
次に全国相談会会場の住所となっている日本リージャスとの間にも業務提携などなんらかの関係があるかも知れないと考えて問い合わせてみたが、関係はないとのことだった。これは小筆が日本リージャスに問い合わせた後に日本中小企業経営者協会のWEBサイトからこれらの住所が全て削除されたことから、本当に無関係だったことがわる。それにしても住所を貸すのが商売のバーチャルオフィスの住所を削除するのに、一体どんな理由があったのだろうか。
登記されている2名の代表理事のうち、WEBサイトに表記されているのは石黒哲明氏1名である。代表理事が2名いることは不自然と感じるかも知れないが、一般社団法人の代表理事に人数制限はなく、むしろ理事会が設置されていない場合理事全員が代表理事となるらしい。ちなみに、一般社団法人は1名の理事と2名の社員で設立することができ、理事と社員は同一人物でも構わないので、一般社団法人は最低2名いれば設立が可能だ。許認可等の必要もない。登記上の住所をバーチャルオフィスにすれば不動産契約や什器備品などにかかるイニシャルコストも、バーチャルオフィスの使用料以外賃料・水道光熱費などのランニングコストもかからないので、一般社団法人の設立は想像以上にハードルが低い。
設立時からの代表理事である新倉竜也氏については、 元船井総研で株式会社HRForce CMOという経歴と共著が2冊確認できた。HR Force社に在籍確認の問い合わせをしたところ、4年以上前に退職しているとのことだった。
WEBサイトに掲載されているもう一人の代表理事石黒哲明氏の方も新倉氏同様元船井総研で、日本M&Aセンター上席執行役員といった経歴のほか、X(旧Twitter)とFacebookのアカウントを発見することができた。Xではメンション付きの投稿をポストし、Facebookではメンション付きの投稿を行いかつメッセージ付きで友達申請も送ったが、今の所反応はない。
日本中小企業経営者協会とはどんな団体なのか?
設立間もなくバーチャルオフィスに住所を構える一般社団法人日本中小企業経営者協会という団体は、一体なにを行なっている団体なのだろうか? WEBサイトには下記のような記述があるが、大雑把かつ抽象的でいまいちピンとこない。
また、協会運営については次のように記述されている。
弊会は、非営利型のプロボノ活動として、運営しております。
プロボノ活動とは、ビジネス版のボランティアのような活動で、専門的なスキルや知識を持つ人々が、それを無償で社会や地域のために提供する活動のことです。
海外では、プロボノ活動はより広範囲に展開されておりますが、日本ではまだ馴染みのない方も多くいらっしゃるのが現状です。そして、我々がこのような活動が出来るのは、我々の理念に共感し、応援して下さる様々な方々からの寄付や協賛を賜っているためです。
日本中小企業経営者協会WEBサイトより引用
協会の運営が寄付や協賛によって行われているのなら、WEBサイトに協賛企業一覧のようなページがないのは不自然だ。そもそも「協会」とは特定の目的のために会員の協力で設立・運営される組織のことなので、会員紹介ページなどがないのも不自然だ。
また、参加無料で募集している「採用カンファレンス」だが、よくよくWEBサイトをみると3,300円のキャンセル料が発生することが説明されている。「非営利型のプロボノ活動」を謳いながら、これはいかがなものだろうか。
代表理事の経歴と協会の支援メニューに共通するワードは「M&A」
日本中小企業経営者協会のWEBサイトに掲載されている代表理事石黒哲明氏のプロフィールは次の通り。
イタリア系IT会社の日本オリベッティにてキャリアをスタート。 船井総合研究所、日本M&Aセンターでは役員およびトップコンサルタントとして活躍。 広範囲なビジネス経験と豊富な人脈で多くのプロジェクトを成功に導く。
昨年は上場2社の合弁会社として日本初のM&A譲渡オーナー向け専門会社を立ち上げ代表取締役社長に就任。経営支援および経営者支援のハイブリッドコンサルティングを確立。
他に大手社会福祉法人の理事、評議員。スタートアップ企業の社外取締役、アドバイザリーボード。各種団体の顧問を務めるなど多彩な顔を持つ。日本中小企業経営者協会WEBサイトより引用
「昨年は上場2社の合弁会社として日本初のM&A譲渡オーナー向け専門会社を立ち上げ代表取締役社長に就任」とあるが、このプロフィールがいつ現在のものかは書かれていないので、「昨年」がいつのことなのかは不明だが、M&A仲介事業を手がける株式会社ネクストナビの2022年6月24日付「経営体制変更のおしらせ」には、代表取締役者社長が石黒哲明氏との記述が確認できる。また同社のWEBサイトには日本M&Aセンターホールディングスと青山財産ネットワークがそれぞれ50%出資して設立されたという説明があるが、日本M&Aホールディングスは東証プライムに、青山財産ネットワークは東証スタンダード市場にそれぞれ上場されているので、ここでいう「上場2社の合弁会社として日本初のM&A譲渡オーナー向け専門会社」とは株式会社ネクストナビを指すのは間違いなさそうだ。ただし、同社は2016年8月に設立とのことなので、「立ち上げ代表取締役社長に就任」したのかかどうかについては疑問が残る。石黒哲明氏がここで確立したという「経営支援および経営者支援のハイブリッドコンサルティング」は、日本中小企業経営者協会の掲げる支援テーマと一致しており、「M&A」や「事業継承」といったメニューはここにもしっかり含まれている。また同時に、石黒哲明氏は2023年6月29日付けで同社の代表取締役を退任していることも確認できた。
M&Aとは企業の合併や買収、事業統合などを言葉だで、昨今は高齢化や後継者不在などの理由で事業を手放したい中小企業経営者や個人事業主のニーズが急増している。一方でM&Aをめぐるトラブルも数多く表面化している。老舗AV機器メーカー船井電機の破産も、M&A後の不自然な資金流出が原因といわれている。
近頃悪質M&Aで新聞やテレビを賑わせているのが、ルシアンホールディングスの事件だ。東京新聞によれば、この投資会社は買収後、役員報酬などの名目で資金を吸い取る一方、被害企業の負債を残したまま連絡を絶つ手口を繰り返していたという。元の経営者の債務保証を外すという契約も履行せず、会社売却後に思わぬ負債を負わされた経営者もいるという。
参考
M&A仲介市場の信用を地に落とした「ルシアン事件」ざっくり解説!現金吸い上げ、経営者保証未解除…(ダイヤモンドオンライン)
ルシアン事件については様々な媒体で報じられてるので詳細は上記参考サイトに譲るが、企業の譲渡先としてルシアンを紹介したM&A仲介会社の中には、石黒哲明代表理事がかつて在職していた日本M&Aセンターの子会社である株式会社バトンズも含まれていたという。(朝日新聞デジタル2024年5月13日の記事より)
M&A仲介会社は、企業を買収したい投資家と企業を売却したい経営者との間を仲介し、買収が成立すれば買収額に応じた手数料を得ることを生業としている。手数料は売り手と買い手の双方に発生し、多くの場合複雑で高額であるだけでなく、少しでも高く売却したいと考える売り手と少しでも安く買いたい買い手が利益相反の関係となる問題も以前から指摘されている。それだけに、業界最大手の日本M&Aセンターの場合、2024年3月期の売上高は441億円、経常利益165億円、619名のコンサルタントを抱え一人当たりの売上高は7,000万円、平均年収は1,114万円という凄まじさだ。
反面、「日本M&Aセンター トラブル」といったワードでググると、営業成績を粉飾するために不正に売り上げを計上したり、「吸血型M&A」といわれる資金目当てのM&Aを仲介していたなど、多くの不祥事も確認できた。
中小企業庁は不適切なM&Aの増加を受け、M&A支援機関登録制度を発足させ、「中小M&Aガイドライン」を策定してM&A業者に対してこれを遵守するよう呼びかけているので、今後は吸血型M&Aといった詐欺的なものや、担当者に発生する高額なインセンティブを背景とした無理な営業活動などは下火になってゆくことが予想されるが、規制の網がかかれば抜け道ができるのも世の常である。
閑話休題。改めて日本中小企業経営者協会の目的は?
中小企業経営者協会が経営者向けの無料カンファレンスを開催して、中小企業経営者を集客する真の目的は結局わからなかった。しかし、平素は「社長、社長」と呼ばれている中小企業経営者も、悪徳M&A仲介会社や悪徳投資会社といった相手とっては「一羽のカモ」であるという自覚を持つべきではないだろうか。無料だからといって住所も明かさず都合が悪くなると着信拒否で一方的に連絡を立ってしまう相手に会社の情報を差し出して関わりを持つことで、思わぬリスクを負うことになる可能性は否定できない。
個人情報保護法によって守られる個人情報であれば、法を犯してまで流用されるリスクは少ないかもしれないが、企業情報を保護する法律はないのであなたが差し出した会社情報が、中小企業を食い物にしようとする業者の「カモリスト」に加えられたとしても誰も守ってくれない。長年誠実に商売を行なってきた経営者が、カモリストを見てやってきた悪徳M&A業者に嵌められて会社を取られた上に負債だけ背負い込み、会社を倒産させられて従業員が路頭に迷うような事態を招くようなことになれば、自分だけでなく多くの人々が不幸になるだろう。
もしこれと同じFAXを受信して「無料カンファレンスか。ちょっと参加してみようかな」と考えている経営者の方がいたら、くれぐれもご再考を。