山武ジャーナル

【編集長コラム】新聞折込を止めた山武市の英断、全国に広がるか?

山武市の広報紙「広報さんむ」の配布方法が、令和3年4月号から全戸ポスティングに変更され、4月1日には緑と白の帽子をかぶって自転車や徒歩で広報を配布しているシルバー人材センターの会員さんを、市内のあちこちで見かけるようになりました。

それまで山武市は「山武市新聞折込組合(代表:齋藤逸朗)」を通じて、新聞折込で広報紙と議会だよりを配布していましたが、組合の代表である齋藤逸朗氏が経営する「(有)齋藤ニュースサービス=YC成東」の店頭で、配達されない大量の新聞が古紙回収車に積み込まれたり、配送センターから納品された新聞が、配達に持ち出されず大量に取り残されていた様子などが確認され、組合の申告する折込数が世帯数を上回るなど明らかに過大であったことも明らかになりました。

山武市の世帯数を上回る折込数

配達されない大量の新聞が、他県ナンバーの古紙回収車に積み込まれる(撮影場所:齋藤ニュースサービス)

配送された新聞が配達に持ち出されず店頭に取り残される(撮影場所:齋藤ニュースサービス)

新聞には読者に届くことなく古紙として処分される「残紙」が、大量に存在していると指摘されています。

新聞社は発行部数が多ければ広告単価を高く設定することができるし、新聞販売店は配達件数が多ければその分折込チラシの折込料収入が多くなりますが、実際に販売していない新聞を販売しているとして広告料を取ったり、折込料金を取れば、一般的には詐欺行為です。

山武市では山武ジャーナルが新聞折込組合の申告数に不正がある可能性を指摘しておよそ2年で、新聞折込による広報紙の配付を停止しましたが、「MEDIA KOKUSYO」を主催するジャーナリスト黒薮哲哉氏の取材により、広報紙の折込数水増しが、全国的な問題である可能性が浮上してきました。

山武市だけではない広報紙折込数水増し問題

MEDIA KOKUSYOが指摘する広報紙水増し疑惑問題の一部をご紹介します。

【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

千葉県の広報紙『ちば県民だより』、21万部水増しの疑惑、必要な予備部数は9000部、背景に新聞社のビジネスモデル

埼玉県秩父市で選挙公報の廃棄、2万6000世帯の地域で1万部水増し疑惑、問われる新聞協会の「教育の中に新聞を運動」(NIE)、過去に秩父市立大田中学校を指定校に

静岡県の広報紙『県民だより』、4万部水増し、各地で発覚する広報紙の「折り込み詐欺」

滋賀県の広報紙『滋賀プラスワン』、7万部を水増し、新聞発行部数・39万部に対して広報紙・46万部を提供、背景に「押し紙」

大阪府の広報紙『府政だより』を毎日新聞社系の印刷会社が印刷、請負先の代理店は福岡市のホープオフセット共同企業体、新聞折込部数については情報公開請求中

千葉県船橋市でも広報紙の水増し疑惑、広報紙の販売店向け卸部数がABC部数を1万3600部上回る、最大で約3万5000部の水増し

千葉県流山市で広報紙の大幅な水増し、約3万7000の新聞発行部数に対して約5万5000部を供給

MEDIA KOKUSYO「『週刊金曜日』が広報紙の水増し問題を指摘、「押し紙」同様に古くて新しい問題」より

 

流山市では大野富夫市議の議会一般質問で、新聞の購読率が年々減少している中、過去5年間折込部数が55,238部に固定されていた実態も明らかになりました。

千葉県流山市の大野富生市議(NHK党)が広報紙の水増し問題を追及、市当局の見解、「不正があれば契約を破棄して、損害賠償を請求する」

 

新聞の部数水増し問題は、これまで週刊誌などで散発的に報じられることはあっても、新聞社と資本関係のある大手メディアで取り上げられることは殆どありませんでしたが、黒薮氏の地道な取材やインターネットの発達によって、今では多くの人が知るところとなった今、行政がこの様な状況を放置すれば不作為の責任を免れない状況になっているのではないでしょうか。

新聞の購読率は年々減少し、(一社)日本新聞協会の2020年度のデータで61%となっていますが、この数字には読者の存在しない水増し分の「残紙」も含まれています。4割程度というアンケート調査結果も見られます。

自治体が住民に広報誌や選挙公報を届ける手段として、新聞折込という手段はすでに適当で無くなっているのは明らかです。まして、部数の水増しなどがあればなおのことです。

新聞折込以外の広報手段を模索していく必要に迫られている全国の自治体にとって、山武市の今回の判断は一つの指針となり得るのではないでしょうか。