山武市、人口5万人割れ

山武市、人口5万人割れ

令和3年5月1日現在の山武市の人口が5万人を割り込み、4万9,938人となった。

成東町、松尾町、山武町、蓮沼村の3町1村が平成18年に合併して山武市が誕生して今年で15年となるが、合併当時の6万143人から実に1万205人の人口が減少した。

合併前の松尾町の人口が約1万1,000人と考えると、合併後15年で旧松尾町の住民がほぼ全員何処かへ消えてしまった規模の急激な人口減少だ。

合併から3期12年市長を務めた椎名千収前市長は「少子高齢化・人口減少は山武市だけの問題でなく、日本民族全体の問題」「他の自治体と人口の奪い合いになる施策はしたくない」と、人口減少対策の施策を一切行って来なかったこともあり、平成29年には合計特殊出生率が0.91と千葉県内の市町村でワーストワンを記録した。

平成30年に市長となった松下浩明現市長は所信表明で、

「現在、本市が抱えている最大の問題は人口減少対策であります、これについては地域の活力を低下させる非常に重大な問題と捉え、全ての取り組みを人口減少・少子化対策に繋げるものとして展開してまいります。」

広報さんむ2018.6号より

と表明し、当時は新市長の元で山武市の人口増加と活性化が大いに期待されたが、結果的には平成30年4月の松下市長就任時の5万2,386人から、3年間で2,448人の減少となった。この人数は、合併前の旧蓮沼村の人口約4,800人の半分に当たる。

近隣市の中でも山武市の人口減少が突出

山武市合併当時と現在の人口を、近隣市と比較すると以下の通りとなる。

各自治体の公表の状況から、比較対象は平成18年4月と令和3年4月とした。

自治体名 平成18年4月人口 令和3年4月人口 増減 増減率
山武市 60,143 50,052 -10,091 -16.8%
東金市 60,256 57,451 -2,805 -4.7%
大網白里市 50,448 48,861 -1,587 -3.1%
八街市 76,029 68,301 -7,728 -10.1%
富里市 51,439 49,645 -1,794 -3.5%

各自治体とも人口減少が認められるが、山武市の人口減少は突出しているのがわかる。

中でも隣接した東金市は、交通の便や地域性などの地政学的な条件はほぼ似通っているにも関わらず、山武市の人口減少は3倍以上となっている。

急激な人口減少下で、外国人は倍増

令和3年5月1日現在、山武市に住民登録されている外国人は1,289人。

公開されている最も古い平成24年8月時点の653人から、ほぼ倍増している。

中でも最も増加が顕著で、山武市の全外国人のおよそ4割にあたる500人を占めるのがスリランカ人だ。山武ジャーナルの取材で確認した限りで一番古い記録で、平成25年4月時点のスリランカ人住民は54人だったので、8年間で実に9倍以上増加したことになる。

出入国在留管理庁が公開している最新の在留外国人の統計によれば、全在留外国人2,951,365人人のうち、スリランカ人の割合はそのうち1%の29,517人であることから見ても、山武市のスリランカ人増加は異常事態といえる。

山武市のスリランカ人の多くは、かつては入管難民法による難民審査制度を悪用した偽装難民がほとんどだったが、平成30年に制度見直しとなって以後は、スリランカ企業の日本法人や、合同会社=LLCなどのペーパーカンパニーを設立して取締役登記し、経営・管理ビザを取得するといった手口へと変化している。

スリランカ企業の日本法人など8社が登記されている民家(山武市松尾町借毛本郷)

山武市内に住むスリランカ人の多くは、高い塀に囲まれた「ヤード」と呼ばれる場所で中古車の解体などを行っていると見られているが、市内のスリランカ人増加に比例して、「農家の作業場で外国人が農機を物色していた」「敷地内のガレージに駐車していた車のワイパーに、買い取りのチラシが挟まっていた」といった事案や、ヤード内でのスリランカ人同士の抗争事件などの報道から、市民の間で治安の悪化を懸念する声も少なくない。

車で連れ去り…千葉でスリランカ人抗争 困難極める捜査(朝日新聞)

お題目では許されない人口減少対策

松下市長の所信表明と同様に、平成31年の市議会議員選挙の際も「人口減少をくい止める」といったスローガンを掲げて当選した市議会議員も確認できる。

彼らは本当に山武市の人口減少に歯止めをかけることが出来るというのだろうか。

出来るとしたら、どんなアイデアを持っているのだろうか。

市長選挙から3年、市議選挙から2年、山武市の人口は近隣市と比較しても急速に減少を続けている。

お題目を唱えるだけでは意味が無い。

今すぐ数字で示せとまでは言わないが、せめて具体的なビジョンだけでも示すのが、有権者に対する責任ではないだろうか。

確かに、高度成長期からバブル期の様に、持続的なインフレのもと、誰もが今年より来年の所得が増えることを疑わず、不動産の値上がりが住宅ローンの金利負担を上回る時代に戻ることはないかもしれない。

その点、「人口減少は国の問題なので、市に出来ることは何もない」という、椎名前市長の考えもある意味正しかったのかもしれない。

しかし、だからと言って何もしなくて良い事にもならない。

人口減少が日本、あるいはこの地域にとって避けて通れない宿命だったとしても、市長の責務はその中で中長期的に持続可能なビジョンを示し、実行することではないだろうか。

椎名前市長による、市内各地にハコモノを乱立させた政策は、インフレと経済成長、それに伴い自然に人口が増加する時代ではまだしも、デフレ、低成長あるいはマイナス成長下では、愚の骨頂だったと断ぜざるを得ない。

山武市は引き続き有効性が確認出来ないこれまでの「人口増加政策」を進めるのか、あるいは人口減少時代に合わせて市政の方向性を大胆に見なおすか、人口5万人割れによって松下市長は重大な分水嶺に立たされた。

何れにしても今後もこのまま人口減少の傾向が続く場合、現在山武市と独法で95億3,000万円の事業予算で計画されている、さんむ医療センターの移転・建替などの大型事業については、地方公共団体としての持続可能性の観点からの再検証が必至の状況ではないだろうか。