山武ジャーナル

【日向台水道問題】山武市議会、常任委員会否決議案を本会議で可決

山武市議会は令和3年3月12日、経済建設常任員会で否決された2議案について、本会議で一転可決した。

議会には議長が任命する委員会が設置され、議案が上程されると議長は内容に応じて各委員会に付託し審議される。各委員会委員長は審議内容を本会議で全議員に報告し、その結果を受けて全議員で採決が行われる。

委員会での審議結果が本会議で覆されるのは、山武市議会においては極めて異例。

二つの議案は旧山武町地区の水道問題

現状、山武市内の水道行政は、九十九里広域水道企業団傘下で、東金市・山武市・大網白里市・九十九里町・横芝光町で構成する山武郡市広域水道企業団(企業長:松下浩明山武市長)から給水を受ける旧成東町、旧松尾町、旧蓮沼村地区と、山武市独自に汲み上げた地下水を給水する旧山武町地区と、2つの異なる水道事業が並行している。

山武郡市広域水道企業団HPより

今回問題となっているのは、山武市が独自に運営する旧山武町地区の水道事業。

合併前の山武町では、平成10年に千葉県から水道事業認可を受け、深層地下水を水源とする山武浄水場を設置して、平成13年から町内6箇所の給水区で水道事業を開始し、山武市合併後も継続している。

山武町が水道事業を開始する前に大規模開発された「日向台団地」は、デベロッパーの太平洋興発(株)が民間として町に先駆けて上下水道設備を独自に整備し、現在も市内他地区と比較してほぼ半額の料金で水道を提供しているが、設置から30年以上経過している設備の劣化や、台風15号の際、他地区と比較して復旧が大幅に遅れたといった問題が顕在化している。

今回問題となっているのは、

・日向台地区と戸田地区を水道の給水範囲に加える=議案第17号

・新たに給水範囲に加えた地区の水道加入金(13mm:165,000円、20mm:297,000円)の半額を市が負担する=議案第18号

の2議案。

山武市HPより

常任委員会で否決した議員が、本会議では可決に賛成

この2議案は当初、経済建設常任委員会に付託され、委員会審議の結果、委員長を除く5議員のうち4名の反対で否決されたが、本会議の採決でそのうち複数の議員が賛成に回ったことで、2議案は一転可決となった。

議案第17号(給水区域拡張)
常任委員会 本会議
小川善郎(委員長) 賛成
加藤忠勝(副委員長) 反対 賛成
八角公二 反対 反対
石川和久 反対 反対
深沢誠 賛成 賛成
齋藤昌秀 反対 賛成

本会議採決の結果:賛成多数(賛成:10 反対:8)で可決。

議案第18号(水道加入金半額負担)
常任委員会 本会議
小川善郎(委員長) 賛成
加藤忠勝(副委員長) 反対 賛成
八角公二 反対 反対
石川和久 反対 反対
深沢誠 賛成 賛成
齋藤昌秀 反対 反対

本会議採決の結果:賛否同数のため議長裁決により可決

 

議案第17号、第18号を否決した旨の委員会報告を行う、経済建設常任委員会委員長小川善郎議員(中央)

 

傍聴席に設置されたタブレットに表示された、経済建設常任委員会の審議結果

両議案とも小川善郎議員は委員長のため委員会での採決には加わっていないが、委員長として本会議で両議案を否決した旨の説明を行っていたため、他の態度を変えた議員同様赤字で示した。

齋藤昌秀議員については、日向台地区の水道加入金免除と、加入後も水道料金の減免を求める趣旨の請願(不採択)の紹介議員となっており、半額負担ではなく全額市負担という立場から18号議案には反対したと見られる。

日向台地区の水道加入料免除と、加入後の水道料金減免を求める請願の採択に、一人だけ賛成する齋藤昌秀議員

いずれにしても、何ら修正も加えられていない全く同じ議案について、常任委員会と本会議で判断を覆した加藤忠勝議員、齋藤昌秀議員、そして委員長として委員会の決定に責任をもつ立場でありながら、「否決」とした委員会決定を覆して賛成に回った小川善郎議員の3名は、一体どの様な理由でこの様な行動を起こしたのだろうか。

自ら任命した委員会の審議結果を否定した大川義男議長

大川義男議長は、賛否同数となった第18号議案について、議長裁定で「賛成」として可決させたが、これは自ら任命した常任委員会に自ら付託した議案について、委員会の「否決」という決定を否定したことになる。

自分の政策実現のための予算を自ら削りに行った戸村勝敏議員

今議会では同時に令和3年度山武市水道事業皆生予算案が上程されていたが、当初案には18号事案可決前にもかかわらず日向台団地の水道加入金を半額負担する為の約7,200万円の予算が組み込まれていた。

18号議案が否決された後、この7,200万円を予算案から削除する動議が戸村勝敏議員から提起され、本会議での議案審議に先立ち予算審議特別委員会が招集され、戸村議員の提起通りこの分の予算は削除された。

しかし、戸村議員は本会議において、経済建設常任委員会で否決された第18号議案に対して、賛成の立場から討論を行った。

本会議での討論は事前通告が必要なので、予算審議特別委員会で7,200万円の削除を決めた時点で、戸村議員は常任委員会で否決された18号議案を、なんとしても本会議で逆転可決させようとする強い意志を持っていたのは明白である。

つまり、戸村議員は自分の政策を実現する裏付けとなる予算を、自ら削りに行くという、極めて理解し難い行動をとったことになる。

この不可思議な行動ついて、山武ジャーナルは戸村議員に電話インタビューを行った。

山武ジャーナル(以下SJ)「戸村議員は18号議案に賛成という強い意志をお持ちで賛成討論まで行っていますが、それならなぜその政策の裏付けとなる予算を削除する動議を行ったのですか?」

戸村勝敏議員(以下戸村議員)「(18号議案が成立する前に予算が計上されていると)議案が通らないと思いました」

SJ「34号議案(水道予算案)は18号議案の後に採決されるものなので、その前に18号議案が可決されていれば(修正前の34号議案が)通らない道理はなくなると思いますが」

戸村議員「やはり議案が可決する前に予算が計上されるのは不適切ですから」

SJ「戸村議員は常任委員会で否決されようとも本会議で覆そうとする強い意志をお持ちだったと思いますが、常任委員会で反対された議員さんがやるならまだしも、なぜ戸村議員がやる必要があるのでしょうか?」

戸村議員「私は山武の議員で、水道委員ですから」

SJ「この今回本会議で賛成したのは(会派)新政会と公明党でした。公明党は常任委員会でも賛成でしたが、常任委員会で反対した新政会の議員(加藤忠勝議員)さんと委員長(小川義郎議員)が本会議で賛成に回りました。これについて会派(新政会)で何らかのお話があったのですか?」

戸村議員「それは私がお願いしました」

SJ「常任委員会と本会議で異なる判断をするとなると、かなり重大な決断になると思いますが、お二人の議員は戸村議員からお願いされてその様な決断をしたと?」

戸村議員「私だけということではなく、山武(地区)の議員ということです」

SJ「戸村議員の他に山武(地区)の議員といえば、宍倉議員(新政会会派長)と・・・」

戸村議員「今は宍倉議員だけです」

SJ「では、大川議長も同じ会派だと思いますが、大川議長が常任委員会で否決した議案に賛成したのも、宍倉議員と戸村議員が頼んだからですか?」

戸村議員「さすがに議長はご自分の考えだったと思います。というか、同数になるとは思っていませんでした」

SJ「と言うと、17号議案で賛成に回った齋藤議員が賛成するものと考えていたのですか?」

戸村議員「いえ、並木(幹男)議員は賛成してくれるものと思っていました。山武(地区)ですから」

この様に、戸村議員の話によれば、会派新政会(会派長:宍倉弘康議員)は、もとより本会議での逆転可決を見込んでいたことがわかる。

それならなぜ同会派所属議員が正副委員長を務める経済建設常任委員会で初めから可決させなかったのか、また裏付けとなる予算を敢えて削る動議を出したのか、謎は深まるばかりである。

疑問点の多い日向台地区水道問題

議案第17号、第18号の採決に先立ち、石川和久議員が反対の立場で討論を行っていた。

石川議員の主な指摘は以下の通り。

・当初議案説明の趣旨は、太平洋興発(株)の水道設備を市に組み入れる為としていたが、いつの間にか九十九里広域水道企業団との統合の為とすり替わっている。

・拡張される水道供給地域だけ加入金を半額にする場合、他の地域との均衡をどのように図るかといった課題も発生するが、常任委員会での第17号の否決に伴い、水道課長が第18号に係るこれらの問題について説明を行わなかったため、議論が尽くされていない。

・常任委員会での慎重審議の結果否決された議案にも関わらず、否決後に議員を個々に呼び出して説明を行うなど、議員軽視、議会軽視、住民軽視の姿勢が見られる。

反対討論を行う石川和久議員

この石川議員の反対討論については、戸村勝敏議員もインタビューの際、「石川議員の指摘はもっともだと思います」と語っている。

山武市執行部と議会最大会派による強引な議会運営の背景は?

この様に、常任委員会で一度は反対して否決した議案について、同じ委員が本会議で意見を翻して可決を図るといった極めて強引な議会運営が、山武市執行部と全議員19名中7名を擁する最大会派新政会によって行われた、日向台団地の水道問題に一体どのような背景があるのか。

常任委員会と本会議で態度を変えた加藤忠勝議員と齋藤昌秀議員。

委員長でありながら委員会決定を本会議で覆した経済建設常任委員会委員長小川善郎議員。

自ら任命した委員会に自ら付託した議案の審議結果を否定した大川義男議長。

自分の政策を実現するための予算を自分で削りに行った戸村勝敏議員。

5名の議員がとった到底理解できない行動の裏に何があるのか。

これらの議案が成立したことで、今後山武市には数億円から数十億円規模の財政負担が生じることは避けられない。

山武ジャーナルでは引き続きこの問題について取材を続ける。