令和2年4月19日告示26日投開票の茂原市長選挙を控え、現職の田中豊彦市長(67歳)が2月26日に開催した市政報告会で、参加した支持者にマスクを配布していたことが分かった。
以下、日刊ゲンダイの記事を引用する。
マスク不足が続き、いまだ貴重品となる中、千葉・茂原市の田中豊彦市長(67)が支援者にマスクを配っていたことが判明した。
4月19日告示(投開票同26日)の市長選に向けた2月26日の市政報告会で、支援者たちに個別包装されたマスクとペットボトル入りのお茶を支給したという。本紙(日刊ゲンダイ)が入手した当日の動画では「強行突破、今日やらさせていただきました」とあいさつした後、市長は次のように続けた。
「皆さま方の持っている、私の封筒の中にはですね、マスクが入っておるはずです。そのマスクは、茂原発のマスクでございまして」「これは抗ウイルス性、ウイルスを入れないようなマスクになっておりまして、できれば、それを着けていただければ多分大丈夫だと思っておりますので。よろしくお願いしたいと申し上げます」
そう話すと参加者が封筒を開けたためか、ガサガサと音が会場に広がる。
さらに市長は「実は茂原の●●●(SJ注:具体的な地域名のため伏せ字とした)というところに住んでいる方がダイヤモンド・プリンセスに乗っていた」「〇〇さんという一般の方なんです」と個人名を明かして報告をしていた。
この件について、今月3日の予算審査特別委員会で市長は質問されていた。
「マスクとペットボトルの配布が公職選挙法違反でないかと質問したのですが、市長は何も答えず黙っていました」(市原健二市議)
そこで日刊ゲンダイは、田中市長に見解を聞いた。
「マスクもお茶も後援会が配りました。良識の範囲内です。茂原市の選挙管理委員会に確認したところ、ウイルス対策で参加者にマスクを配って着けてもらうことは当然だ、となった。マスクはサンプルのようなものを地元の業者に個人的にもらって市役所にたまたま保管していました。選挙違反ではありません」
動画を見る限り、着用せず土産として持ち帰った人も多いようだが……。
日刊ゲンダイDIGITALより引用
茂原市は現職田中市長の下、平成28年に「茂原市まちづくり条例」を制定した。
これは流山市に次いで、千葉県の地方公共団体では2例目の「自治基本条例」である。
自治基本条例の問題点はこれまで山武ジャーナルでも指摘してきた通りで、この事については近々改めて取り上げるが、憲法違反の疑いのある自治基本条例を制定した首長の言動にどの様な問題があったのか、この記事を元に指摘していきたい。
問題点1.市政報告会開催の判断について
田中市長がマスクを配布した「市政報告会」が開催されたのは令和2年2月26日。安倍総理が全国の小中学校に一斉休校を要請したのが2月27日だったので、その前日ということになる。
その頃、すでに多くの地方自治体などではイベントの自粛・中止といった判断が下されている。茂原市においては18日に感染症対策本部が設置され、22日には茂原市立図書館で館内イベントの中止の告知がされていることが確認できる。
(2020年2月21日更新) 重要なお知らせ
新型コロナウィルス感染症の対応に伴う「館内イベント」の開催中止について現在、国内イベントでの新型コロナウィルス感染症の対応について注意喚起がされており、多くの参加者が集まるイベントにおいても、参加者および関係者の安全確保を最優先に考え、開催可否を判断するよう指示が出ております。茂原市立図書館では、令和2年2月21日(金)以降に開催を予定しております、おはなし会・映画会・赤ちゃんといっしょのおはなし会・ショート託児サービス・こどもコンシェルジュ等の館内イベントにつきまして、状況を鑑み、開催を当面中止させていただきます。
(再開時期については感染症鎮静後、周知させていただきます)ご利用者様にはご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。
その様な情勢の中、田中市長は当日冒頭挨拶で
「やるかやらないか、後援会の皆様との話の中で、昨日(25日)『やめた方がいいんじゃないか』と言うことを言われまして、唯一救いは茂原から(感染者が)出ておりませんで、そういうことで強行突破、今日やらせて頂きました」
と発言していたことが、山武ジャーナルが入手した当日のビデオ映像から確認出来た。
茂原市としては少なくとも22日時点において新型コロナウイルス感染防止の観点からイベント中止の判断を下している一方、田中市長個人としては後援会の進言をも振り切って26日に「強行突破」で市政報告会を開催したことになる。
すると、茂原市の各イベント等の中止の判断が新型コロナウイルス感染予防の観点だとすれば、田中市長は自身の支持者であり茂原市民である観客の感染防止には配慮しなかったことになる。
反対に、茂原市内に感染者が出ていないことから市政報告会を開催しても新型コロナウイルス感染のリスクがないと判断したのであれば、その他茂原市のイベントを中止する判断は正当性を失うことになる。
問題点2.マスク着用が感染予防?
次に問題と思われるのが、田中市長のこの発言。
「これは抗ウイルス性、ウイルスを入れないようなマスクになっておりまして、できれば、それを着けていただければ多分大丈夫だと思っておりますので。」
田中市長は「マスクを着けていれば感染しない」という趣旨の説明をしているが、厚生労働省の啓発資料には
「現在、予防用にマスクを買われている方が多いですが、感染症の拡大の効果的な予防には、風邪や感染症の疑いがある人たちに使ってもらうことが何より重要です。」とあり、マスクは感染予防のものではなく、感染者が感染拡大を防ぐために有効なものであると説明されている。
田中市長がマスクを着用すれば新型コロナウイルス感染予防になると考えてこの市政報告会を実施したのであれば、その田中市長の下で茂原市が科学的根拠に基づく有効な防疫施策を実施できるか疑問が生じる。
問題点3.検査結果が陰性の個人名と住所地に言及
市内に感染者がいるという噂を打ち消そうという意図があったとしても、検査で陰性と診断された個人名と住所地を具体的に上げる必要があったのだろうか。
テレビや新聞報道などもされていたようであるが、市長が言及したことによってその地域にあるスーパーの客足が減少しているとの指摘もある。
問題点4.茂原市のガバナンスについて
記事によれば、マスクを配った事自体は田中市長側が選挙管理員会に確認し問題ないとのことである。
しかし、その当時買い占めなどの影響で市中でマスクを入手するのは大変困難であり、政府が転売を禁じる前であったことからインターネットのオークションサイトや個人売買サイトなどを通じて高額で売買されていた事実は指摘しておきたい。
その問題とは別に、
「マスクはサンプルのようなものを地元の業者に個人的にもらって市役所にたまたま保管していました。」
とあるが、これは一体どう言うことなのだろうか。
市長が地元業者からサンプルとしてマスクをもらい、しかもそれを市役所に保管していたということであれば、考えられるのは地元業者が市長に表敬訪問を行う際に持って来たというシチュエーションが考えられる。
もしそうであれば、市長が公務時間中に市役所で受け取ったものは、市長個人のものになるのか、茂原市のものになるのかという疑問が生じる。
そのことについて茂原市総務部秘書課に見解を尋ねたところ、
「マスクを貰ったことや、市長が市役所に保管していたことについては一切把握していない。私物を割り当てられたロッカーに保管しておくようなものではないのか」
との回答であった。
業者や団体などが地方公共団体に物品を寄贈する際、代表として首長に手渡すことはよくあることである。
例えば、絵画などであれば市の美術館やホールといった公共施設での展示が前提であるだろうから、手渡したのが市長であったとしても市長が個人的に自宅に持ち帰ることはないだろう。
マスクを寄贈した業者がいつどの様なシチュエーションで田中市長に渡したのかは分からないが、公立長生病院などへの売り込みや、学校その他公共施設などで市民に使って貰いたいという意図があった可能性も否定出来ないだろう。
何れにしても、田中市長が公務中に公務として受け取った物品であれば、それを自身の選挙対策として後援会で支持者に配布したことは適切であったかどうか甚だ疑問である。
また、それを茂原市が一切把握していなかったという状況も、ガバナンス的に問題がないとは言えないのではないでだろうか。
ここに指摘した通り、田中茂原市長の一連の言動には大いに問題があると言わざるをえない。
4年前の市長選挙で田中市長は無投票で3選を果たしている。4月の茂原市長選挙は田中市長にとって8年目振りの市民による審判の機会となりそうだ。