山武ジャーナル

【編集長コラム】恥ずべきことは何なのか? 山武市教委職員の逮捕から懲戒処分までの半年間について考える

平成31年1月21日、一人の山武市教育委員会職員の懲戒処分が公表された。

職員の懲戒処分等について

市民の皆さまにお詫び申し上げます。

この度、本市教育委員会男性職員が、女性職員の更衣用で使用する室内で盗撮行為を行っていたことに対し処分いたしました。
今回の行為は、公務員である以前に社会人としてあってはならない行為であり山武市の教育行政に対する市民の信頼を低下させる行為であることから1月21日付けで当該職員を停職6月としました。
また、管理監督責任として、同日付けで課長級職員を厳重注意処分としました。
今後は、このようなことが二度と起こらないよう法令遵守の徹底及び綱紀粛正を図るなど、再発防止のため最大限の努力をしてまいります。

平成31年1月21日 山武市教育委員会

職員の懲戒処分等について [PDFファイル/88KB]

山武市HPより(https://www.city.sammu.lg.jp/site/kyouikuiinkai/syokuinntyoukaisyobunntou.html)

リンク先のPDFファイルについては、今後削除される可能性を考慮して下記にコピーを配置する。

山武市の発表によれば、事案は盗撮。平成30年7月25日に逮捕され、12月27日に起訴、平成31年1月8日に罰金10万円の略式命令を受け、山武市教育委員会が処分は事案発生から実に約半年後の1月21日にようやく処分を下した。

山武市は「今回の行為は、公務員である以前に社会人としてあってはならない行為であり山武市の教育行政に対する市民の信頼を低下させる行為」と、一見厳しく断罪しているようではあるが、当該職員は保釈されてから処分が下されるまでのおよそ半年間、教育委員会の業務に従事していた。

犯罪を犯した職員の、処分の根拠は何なのか?

悪いことをすれば怒られる。

私たちが子供の頃に親や学校の先生から叩きこまれた常識である。

子供が大人になれば責任が伴うため、ただ怒られるだけでは済まされず、何らかのペナルティーが発生するのも常識である。

しかしながら、地方公共団体は法令に基づいて運営されるものであるから、職員の処分についても法令を紐解く必要があるだろう。

今回の処分の根拠は、

・地方公務員法

・山武市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例

によるものとのことである。

地方公務員法の懲戒についての定めは、第29条に次のようにある。

1.職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

一  この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

今回の事案は、三の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当するものである。

さて、ではその「非行」についてもう少し考えてみたい。

今回の事案は「盗撮」という行為に伴う建造物侵入、軽犯罪法違反による刑法犯として略式手続きが終了していることから、犯罪行為であることが明らかであるが、処分対象となる「非行」は必ずしも刑事手続を伴う犯罪だけではない。例えば職員の間のパワハラ、セクハラといった問題や、職員が市民に暴言を吐くといった事案なども、刑事事件にならずとも処分の対象となる「非行」と認められるだろう。

刑事事件では、裁判による判決が確定するまでは何人も無罪と推定されるのが、近代法の基本原則である。

今回の処分は、この「推定無罪」の原則から、刑事手続が終了するまで市教委としての処分を行わなかったとが一見正しい判断のように見えるが、これは大きな考え違いである。

「略式命令」とは、刑事訴訟法に基づく公判を伴わない略式手続によって出されるものである。もし否認すれば略式でなく正式な裁判の手続きとなるので、当人が罪を認めていなければこの様な手続きになることはない。

当人が罪を認めているのであれば、その時点で「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」が認められ、刑事手続が進むと進まないとに関わらず、地方公務員法に基づく懲戒処分の根拠となる。

しかしながら、山武市教育委員会は職員の盗撮行為という「非行」、すなわち地方公務員法に基づく職員の懲戒事由を認めていたにも関わらず、約半年の間必要な処分を下さずに当該職員を業務に従事さていたのである。

恥ずべきことは不祥事だけなのか?

職員の逮捕という不祥事は、山武市教育委員会や山武市にとって恥ずべきことだろう。

小筆はこの事案が発生して1週間程後に、ある職員に尋ねたところその事実を知らず、

「本当なら恥ずかしことです。そんなことはあってはならないことです。」

と、無関係にもかかわらず大変恐縮されていた。

それからまたしばらく後に別の市職員にも尋ねたが、その職員もやはり事実を知らなかった。その職員によると、

「事情通の先輩職員もそのような話はしていなかった」

とのことだった。

さらにその後、当該職員が配置転換の上職場復帰しているとの情報を得たため、休憩中の職員に事実確認をしたところ、確かに最近そのような職員が異動して来たが、逮捕の件については初耳との事だった。

不祥事を起こしたのはたった一人で、それ以外の大多数の市職員諸兄は日々真面目に業務に取り組んでおられると承知しているが、それが全職員の不名誉となるのは間違いない。しかしそれ以上に、小筆がこの件について尋ねた3人の職員の方々にとって、同僚の不祥事を寝耳に水で市民から指摘されたことの方が、不祥事そのものよりも恥ずべきことと感じたのではないだろうか。

職員の不祥事はたしかに恥ずべきことだろう。

しかし、もし仮に山武市や山武市教育委員会が意図的にそれを隠そうとしていたとすれば、それは市民と行政との間の信頼関係に対する裏切り行為であり、不祥事そのものよりも恥ずべき行為である。

そして、刑事手続終了までの半年間処分を行わなかったことは、女性の更衣室に侵入して行った盗撮という卑劣な行為について、山武市教育委員会自らが善悪の判断を下すことが出来なかったことを意味する。

刑事手続の裏付けがなければ懲戒処分の判断も下せないのであれば、本来子供たちに物事の善悪を教え諭す立場の教育委員会として恥を知るべきである。

今回の処分には当事者の他に担当課長に厳重注意の処分が下されているが、半年の間処分を下さなかった、教育委員会に関する全ての事務を司る立場にある嘉瀬教育長の責任こそ追及されるべきではないだろうか。